日本にグルテンフリーの基準はある? アメリカ・EUとの違い

日本の「グルテンフリー」は、店ごとに意味が違う
日本で「グルテンフリー」と書かれた看板やメニューを見たとき、それが何を意味しているかは、店によって違います。
- パンや麺など、主な素材だけを小麦なしにしている
- 小麦粉を使った材料はすべて除いているが、調味料までは見ていない
- 醤油などの調味料に入った小麦まで除いている
- 大麦やライ麦まで除いている
- さらに、交差接触(調理中の混入)まで防いでいる
WE TABLEでは、東京を中心に800を超える店を確かめてきました。その中で、「グルテンフリー」の意味が、当事者の想定と大きく違う店に何度も出会っています。流行に乗って米粉のメニューを一品置いた店。「コンタミって何ですか」と聞き返す店。グルテンフリーと書きながら、ふつうの小麦入りの醤油を使っている店。「オールグルテンフリー」を名乗る専用店ですら、「うちのは小麦不使用という意味です。大麦は使います」ということがあります。
たとえば「グルテンフリーのハンバーガー」でも、グルテンフリーなのはパンだけで、ハンバーグの味つけには小麦を原料にした調味料が使われている、ということがあります。主な素材を小麦なしにしただけで、「グルテンフリー」と書かれることがあるのです。
悪意があるわけではありません。日本の小麦まわりのルールが、そもそも別の人を守るように作られているからです。
小麦のルールは、誰を守るために作られたか
コンピュータに、すべてのソフトが動く土台のOSがあるように、国の食のルールにも土台があります。私はこれを「食のOS」と呼んでいます。ここで話すのは、そのうちの小麦とグルテンまわりの部分です。乳や卵など、ほかのアレルゲンの話ではありません。
日本の食のOSは、小麦アレルギーのために書かれている。
日本の小麦まわりのルールが想定しているのは、原材料としての小麦に反応してしまう、小麦アレルギーの人です。セリアック病の人は、想定に入っていません。だから制度は、小麦が入っているかどうかを正しく書く「原材料の表示」を軸に組まれました。
欧米の小麦まわりのルールは、グルテンのために書かれています。守る相手のまん中にいるのは、セリアック病の人です。これは各国の公的機関自身が書いています。EUの規則は冒頭で「セリアック病の人はグルテンに対する永続的な不耐性を持つ」と述べ、その人たちが家の中でも外でも食事を選べるようにすることを目的に掲げています。アメリカのFDAも、この基準は「セリアック病の人にとって重要」だと説明しています。
セリアック病の人にとっては、ごくわずかな量のグルテンそのものが問題になります。だから欧米の制度は、どれだけ少なければよいかという「量」を、数字で決めました。FDAは、20ppmという数字を選んだ理由として、食品中で安定して検出できるいちばん低い量であること、セリアック病の人の多くはごく微量のグルテンなら耐えられること、そして国際的な基準とそろっていることを挙げています。
同じ「グルテン」という言葉が、違うものを指している
もうひとつ、日本と欧米で食い違っているものがあります。「グルテン」という言葉そのものです。
もともとグルテンは、小麦のたんぱく質を指す言葉です。小麦粉に水を加えてこねると、グリアジンとグルテニンという2つのたんぱく質がつながって、粘りと弾力のある網の目をつくります。パンがふくらみ、麺にコシが出るのは、このグルテンのおかげです。
大麦、ライ麦、オーツ麦にも、よく似たたんぱく質があります。ただし名前が違い、パンをふくらませるような粘りもほとんどありません(大麦・ライ麦・オーツ麦の話)。
| 穀物 | 主なたんぱく質 |
|---|---|
| 小麦 | グリアジン・グルテニン(あわせて、いわゆるグルテン) |
| 大麦 | ホルデイン |
| ライ麦 | セカリン |
| オーツ麦 | アベニン |
研究者の論文でも、「グルテン」は厳密には小麦のたんぱく質を指す言葉だとされています。ところが欧米の制度は、この言葉の範囲を広げています。
- アメリカ(FDA):グルテンとは、小麦・ライ麦・大麦とその交雑種に含まれ、「セリアック病の人に健康上の悪影響を与えうる」たんぱく質
- EU:小麦・ライ麦・大麦・オーツ麦とその交雑種に由来し、一部の人が耐えられないたんぱく質の成分
- オーストラリア・ニュージーランド:小麦・ライ麦・オーツ麦・大麦・ライ小麦・スペルト小麦の主なたんぱく質で、セリアック病などに関わるもの
どれも、セリアック病の人が反応するかどうかで、言葉の範囲を決めています。欧米で「グルテン」や「グルテンフリー」と言うとき、それは医学の側から見た言葉です。大麦のホルデインも、ライ麦のセカリンも「グルテン」に含まれます。
つまり「グルテン」という言葉には、2つの意味が並んでいます。
| 成分としての「グルテン」 | 制度・医学の「グルテン」 | |
|---|---|---|
| 指すもの | 小麦のグリアジン+グルテニンがつくる、粘りのあるたんぱく質 | セリアック病の人が反応する、麦類のたんぱく質の総称 |
| 含まれる穀物 | 小麦だけ | 小麦・大麦・ライ麦(EU・オーストラリアなどはオーツ麦も) |
| 主に使う場面 | 調理・食品の加工 | 食品表示の制度、医療 |
欧米では、後者の意味が「グルテンフリー」の表示の基準になり、社会に広く定着しました。日本で広く使われているのは、前者の意味です。
一方、日本で「グルテン」と言えば、多くの人が思い浮かべるのは、パンや麺の粘りのもとです。日本の百科事典も、グルテンを「小麦粉に水を加えてこねると形成される、粘弾性のあるたんぱく質」と説明しています。成分としては、こちらがもともとの意味に近いとも言えます。
ここからは私の考えですが、日本では「グルテン」が、医学の言葉ではなく、調理の言葉として広まってきたのだと思います。だから日本人にとって「グルテン」は小麦と強く結びついていて、大麦やライ麦まで含むものとは受け取られにくい。これは料理人も同じです。海外のお客さまを多く迎える一流のレストランやホテルで経験を積んだシェフでなければ、この違いを知らないことも多いと私は感じています。
同じ「グルテンフリー」という言葉を使っていても、あなたと日本の店は、違うものを思い浮かべているかもしれません。日本の店と話すときは、「グルテン」という一語に頼らず、「小麦・大麦・ライ麦」と、避けたいものを穀物の名前で具体的に伝えてください。
日本にグルテンフリーの基準はある? 各国の基準を比較
| 国・地域 | 「グルテンフリー」の基準 | 外食への適用 | 大麦・ライ麦 |
|---|---|---|---|
| アメリカ | グルテン20ppm未満(FDA、2013年) | 飲食店の表示もこの定義に沿うべき、とFDAが示している | 「グルテン」の定義には含まれるが、アレルギー表示の義務品目は小麦のみ |
| EU | 20mg/kg以下(2016年7月から、包装されていない食品にも) | レストランの料理にも適用。アレルゲン情報の提供も2014年12月から義務 | 「グルテンを含む穀物」として表示の義務あり |
| オーストラリア・ニュージーランド | 検出されないこと。さらに、オーツ麦やその製品、麦芽にしたグルテンを含む穀物(大麦麦芽など)やその製品を含む食品には表示できない | 外食のメニュー表示にも同じ基準 | 「グルテンを含む穀物」として表示の義務あり |
| 日本 | 法的な定義・基準なし(米粉の製造工程を管理する任意のJASのみ) | 飲食店にはアレルギー表示の義務もない | 表示の義務も推奨もない |
並べると、違いがはっきりします。欧米は「グルテンがどれだけ少ないか」を数字で決めてきました。EUはそれを外食にまで広げています。日本には、その数字がありません。飲食店の「グルテンフリー」について、法的な基準は存在しません。
日本にあるのは、容器包装された加工食品に、小麦などのアレルゲンを表示させるルールです。大麦とライ麦は、その表示の義務品目にも、推奨品目にも入っていません。飲食店の料理や量り売りの惣菜には、アレルギー表示の義務そのものがありません(アレルギー表示の義務はどこまで?)。日本で「グルテンフリー」と書かれていても、その多くは、メーカーや店の独自の基準による表示です。
なぜ、日本はこうなっているのか
背景のひとつは、日本ではセリアック病の人が少ないと報告されてきたことです。日本の一般の成人約2,000人を調べた研究では、セリアック病と診断されたのは1人(約0.05%)でした。世界全体では、およそ100人に1人前後と報告されています。
ただし、日本では大規模な調査がまだ少なく、見落としの可能性を問う声がある一方で、内視鏡の検査が広く普及しているため見落とされにくいとする見方もあります。守る相手が数のうえで見えにくければ、制度はその相手のかたちには育ちません。日本の小麦まわりのルールが「小麦アレルギー」のかたちをしているのは、日本の店の怠慢ではなく、この国の前提をそのまま写したものです。
日本で「グルテンフリー」を見たら、最初に聞く2つの質問
日本の「グルテンフリー」が何を意味しているかを確かめるには、この2つを聞けば十分です。
正直に言うと、この2つにきちんと答えられる店は、ごくわずかです。ほとんどの店は、困ってしまいます。ただ、それでかまいません。答えられないという事実そのものが、その店がどこまで手順を持っているかを教えてくれる、いちばん確かな手がかりだからです。
交差接触まで避ける必要がある人は、もう1つ聞いてください。
伝え方の全体は、日本の飲食店でアレルギーを伝える方法にまとめています。醤油については、日本の醤油はグルテンフリー?で詳しく書きました。
あなたは、どちらの線?
同じ「グルテンフリー」の看板でも、意味は読む人によって変わります。
原材料として小麦を避ければ足りる人にとっては、日本のグルテンフリー表示は、実はそこそこ役に立ちます。日本の小麦まわりのルールは、もともと小麦を避ける人のために作られているからです。ただし、上のハンバーガーの例のように、「グルテンフリー」の料理でも、調味料には小麦が入っていることがあります。大麦や醤油まで避けるなら、表示だけでは足りません。
大麦・ライ麦・交差接触まで避ける必要がある人にとっては、日本の「グルテンフリー」の文字は、上の2つの質問への答えを聞くまで、何も意味しません。
WE TABLEの考え方
あなたの国では、安全は多くの場面で「受け取る」ものだったかもしれません。社会が基準をつくり、店がそれに従い、あなたは差し出されたものを信じて食べればよかった。それは、長年の当事者たちが手に入れた、誇るべき仕組みです。ただ、その仕組みは国境で終わります。
グルテンフリーに基準がない日本では、安全は受け取るものではなく、その場で、店と一緒につくるものになります。WE TABLEは、そのための道具をつくっています。当事者のクルーが確かめた店のマップ、日本語であなたの制限を伝えるFood Passport、そして、その確認をすべて事前に済ませておくJOURNEYです。私たちは「安全です」とは言いません。言えるのは、何をどこまで確かめたか、です。
ここに書いた数字と制度は、2026年11月時点のものです。制度は変わることがあります。大事な判断をするときは、出発前に各国の公的機関の最新の情報を確かめてください。
よくある質問
日本にグルテンフリーの基準はありますか?
「グルテンフリー」という表示についての法的な定義や基準はありません。国の規格としてあるのは、米粉の製造工程を管理する任意のJAS(ノングルテン米粉、グルテン1ppm以下)だけです。それ以外の「グルテンフリー」表示は、多くがメーカーや店の独自の基準によるものです。
日本はセリアック病の人にとって旅行しやすい国ですか?
準備をすれば食べられるものはありますが、簡単ではありません。日本の小麦まわりのルールは小麦アレルギーを前提に作られていて、セリアック病は想定されていません。大麦やライ麦、交差接触(調理中の混入)には表示の義務がありません。事前に店に確かめることが欠かせません。
日本の食品表示で、大麦やライ麦は表示されますか?
アレルギー表示の義務や推奨の品目には入っていません。原材料欄に書かれていれば分かりますが、アレルゲンとして目立つ形で示されるわけではありません。
日本の店で「グルテンフリー」と書かれていたら、何を聞けばいいですか?
「加工品や調味料の小麦まで除いていますか」「大麦やライ麦のグルテンも除いていますか」の2つです。答えられるかどうかが、その店の手順を知る手がかりになります。
出典
- U.S. FDA「Gluten and Food Labeling」
- U.S. FDA「Gluten-Free Means What It Says」
- Commission Implementing Regulation (EU) No 828/2014(前文)
- eCFR「21 CFR 101.91 Gluten-free labeling of food」(アメリカ)
- Food Standards Code の gluten の定義(New Zealand Gazette, 2015)
- Daly M, et al.「Mapping Coeliac Toxic Motifs in the Prolamin Seed Storage Proteins of Barley, Rye, and Oats」Frontiers in Nutrition(2020)
- コトバンク「麩」(日本大百科全書・百科事典マイペディア)
- European Commission「Gluten-free food」
- Commission Implementing Regulation (EU) No 828/2014
- EUR-Lex「Regulation (EU) No 1169/2011」
- SA Health「Gluten-free claims in packaged foods」(オーストラリア)
- 消費者庁「食物アレルギー表示に関する情報」
- 農林水産省「ノングルテン米粉の製造工程管理JAS」
- Fukunaga M, et al.「Celiac disease in non-clinical populations of Japan」Journal of Gastroenterology 53(2)(2018、オンライン公開2017)
- Coeliac Australia「Making a gluten free claim」
- Hokari R.「Celiac disease in Japan」JGH Open(2020)
- Singh P, et al.「Global Prevalence of Celiac Disease: Systematic Review and Meta-analysis」Clinical Gastroenterology and Hepatology(2018)
- 小林大樹『Gluten-Free Japan: Between the Kitchen and the Table』(近刊)




