寿司はグルテンフリー? 醤油だけでなく、酢・玉子焼き・天ぷらまで

寿司はグルテンフリー?

寿司の基本の材料は、米、魚、海苔、わさびです。どれにも小麦は入っていません。だから寿司は、グルテンを避ける人にとって、日本で食べやすい料理に見えます。醤油だけグルテンフリーのものに替えればいい、と考える人も多いでしょう。
でも、寿司屋のカウンターには、小麦が入る場所がほかにもあります。まず、表にまとめます。
| どこ | 何が入るか | ひとこと |
|---|---|---|
| 醤油・煮切り醤油・づけ | 醤油の小麦 | おまかせでは、職人が煮切りを塗って出すことが多い |
| ツメ(穴子やうなぎの甘いタレ) | 醤油の小麦 | 穴子、うなぎ、はまぐりなどに塗る |
| シャリ(すし飯)の酢 | 穀物酢の小麦 | 店による。米酢や赤酢なら、ふつう小麦は入らない |
| 酢締め・ガリ | 酢 | こはだやしめさばは酢で締める。ガリは甘酢に漬ける |
| 玉子焼き | 醤油、みりん、すり身など | 作り方は店によって大きく違う |
| いなり・かんぴょう・椎茸 | 醤油で煮る | 巻物やいなりに入る |
| カニカマ・練り物 | でん粉や調味料 | 製品による。小麦以外のアレルゲンにも注意 |
| 天ぷら・天かす | 小麦粉、揚げ油 | えび天巻きや、天かすを使った巻物も |
| 茶碗蒸し・味噌汁 | だし、醤油、具材、みそ | 麩やかまぼこが入ることもある |
醤油については、日本の醤油はグルテンフリー?で詳しく書きました。この記事では、見落とされやすい酢と、寿司屋ならではの交差接触について書きます。
醤油を替えるだけでは、足りない理由

カウンターのおまかせでは、醤油の小皿が出てこないことがよくあります。職人が、醤油にみりんや酒を合わせて煮立てた「煮切り」を、刷毛でネタに塗ってから出すからです。穴子やうなぎには、甘いタレの「ツメ」が塗られます。赤身を醤油に漬けた「づけ」もあります。
つまり、グルテンフリーの醤油を持っていっても、それを使うのは自分の小皿だけです。煮切りやツメを塗らずに出してもらうか、自分の醤油を職人に渡して塗ってもらうかを、最初に頼む必要があります。
シャリの酢に、小麦は入っている?
寿司のシャリは、炊いたごはんに、酢と砂糖、塩を合わせた「合わせ酢(すし酢)」を混ぜて作ります。この酢に、小麦が使われていることがあります。
日本の醸造酢は、国の規格(JAS)で、原料によって分けられています。
| 酢の種類 | 原料 | 小麦は? |
|---|---|---|
| 米酢 | 米の使用量が1Lあたり40g以上(ほかの穀類との併用は、規格では禁じられていない) | ふつう使わない(規格上は併用できる) |
| 米黒酢 | 玄米など(1Lあたり米180g以上)。小麦や大麦を加えてもよい | 加えることがある |
| 穀物酢 | 米、小麦、コーンなどの穀類(1Lあたり40g以上) | 使うものがある |
| 粕酢(赤酢) | 酒粕。※JASでは穀物酢の一種で、独立した区分はない | ふつう使わない |
| 果実酢 | りんごやぶどうなど | 使わない |
たとえば、ミツカンの「穀物酢」の原材料は「穀類(小麦、米、コーン)、アルコール、酒かす」です。小麦が入っているので、ラベルには小麦のアレルギー表示があります。ただし、寿司店で出てくる寿司や、店で注文を受けて詰める持ち帰りの寿司には、こうした表示の義務がありません(アレルギー表示の義務はどこまで?)。
では、日本の酢のうち、どのくらいが小麦を使っているのでしょうか。調べた範囲では、小麦を使う酢の割合を示す公的な統計は見つかりませんでした。手がかりになるのは、農林水産省の資料にある、少し古い生産量の数字です。2006年(平成18年)の醸造酢の生産量は約43万キロリットルで、そのうち約51%が穀物酢でした。米酢・米黒酢・大麦黒酢を除いた「その他の穀物酢」は、全体の約34%です。この中には、酒粕から造る粕酢も含まれます。小麦が入る可能性があるのは、主にこの「その他の穀物酢」と米黒酢、そしてそれらを使った合わせ酢です。ただし、穀物酢のすべてに小麦が入っているわけではありません。それでも、2009年の農畜産業振興機構の資料で、酢メーカー(ミツカン)の研究者は、すしに合う酢として最もポピュラーなのは、米、小麦、コーンなどを使った穀物酢だと書いています。
寿司屋では、酢を自分で合わせる店もあれば、メーカーが作った業務用の合わせ酢を使う店もあります。2009年の資料では、すし用の合わせ酢の生産量は推定10万キロリットルで、その7割以上が業務用・加工用でした。回転寿司や持ち帰り寿司の多店舗化をきっかけに、合わせ酢をメーカーに作ってもらうことが広がりました。合わせ酢の原材料欄に「醸造酢」とだけ書かれている場合、その中に穀物酢が含まれていることもあります。
江戸前の赤酢は、酒粕から造る

握り寿司の原型が江戸で生まれたのは、19世紀の初めです。そのころ、江戸の寿司屋に広まったのが、酒粕から造る「粕酢」でした。尾張の半田(いまの愛知県半田市)で酒造りをしていた中埜又左衛門(ミツカンの創業者)が、酒粕から酢を造り、江戸へ運んだのです。粕酢は赤みがかった色をしているので「赤酢」とも呼ばれ、米酢より安く、江戸の寿司屋に欠かせない調味料になりました。
いまも、江戸前の寿司店の中には、赤酢でシャリを作る店があります。赤酢の原料は酒粕なので、ふつう小麦は使いません。ただし、赤酢と米酢を合わせて使う店も多く、どの酢をどう合わせているかは店によって違います。
酢の小麦は、問題になる量?
ここは、小麦アレルギーの人とセリアック病の人で、答えが違います。
小麦アレルギーの人については、日本に目安があります。厚生労働省の保育所向けガイドラインでは、穀物酢(米酢と大麦黒酢を除く)に小麦が使われている可能性があるとしたうえで、酢のたんぱく質は100mlあたり0.1g程度と非常に少なく、1回に使う量も少ないため、基本的には摂取できるとしています。醤油についても、同じガイドラインは、小麦のたんぱく質は発酵の過程で分解されるため、基本的には小麦アレルギーでも摂取できるとしています。ただし、これは「基本的に」の話です。重い小麦アレルギーの人は、酢まで避ける必要があるかどうかを、主治医に確かめてください。
セリアック病の人については、国によって考え方が違います。日本の酢にどれだけグルテンが残っているかを測ったデータは、見つかりませんでした。アメリカの食品医薬品局(FDA)は、発酵や加水分解によってグルテンが分解された食品は、検査では十分に検出も定量もできないとして、発酵する前の原料がグルテンフリーかどうかで判断しています。アメリカのセリアック病の団体 Beyond Celiac も、大麦から醸造したモルトビネガーはグルテンフリーではないとしています。一方、イギリスの Coeliac UK は、大麦のモルトビネガーでも、グルテンが20ppm以下であれば食べられるとしています。アメリカの考え方に従えば、小麦を使って醸造した穀物酢はグルテンフリーとしては扱われず、イギリスの考え方に従えば、量しだいということになります。
量の感覚をつかむために、私の試算を1つ書いておきます。おまかせで10〜15貫を食べると、シャリはおよそ150〜250gです。家庭のレシピでは、炊いたごはんに対する酢の量は5〜8%ほどなので、酢は約8〜20ml。酢のたんぱく質を100mlあたり0.1gとすると、たんぱく質は8〜20mgほどです。ただし、これは原料の穀物すべてに由来するたんぱく質の量で、そのうちグルテンがどれだけかは分かりません。発酵でどこまで分解されているかも分かりません。比べる数字として、セリアック病の研究では、1日50mgのグルテンを毎日3か月とり続けると、小腸に変化が見られました。1回の食事とそのまま比べられる数字ではありませんが、酢の小麦は、ゼロとは言えないけれど、どれだけ残っているかを確かめる方法もない量だと私は考えています。
だから私は、セリアック病の人には、シャリの酢を確かめることをすすめます。米酢や赤酢だけを使っている店なら、酢の小麦の心配はかなり小さくなります。合わせ酢を使っている店では、その原材料も見せてもらってください。
寿司屋は、天ぷらも玉子焼きも作る
寿司屋で気をつけたいのは、寿司そのものだけではありません。多くの寿司屋は、天ぷら、玉子焼き、茶碗蒸しなど、寿司以外の料理も出します。
天ぷらは、小麦粉の衣をつけて揚げます。同じ板場で衣を作れば、粉が舞うこともありますし、えび天巻きのように、天ぷらを寿司に巻くこともあります。揚げ油も、ほかの揚げものと共有されているのが普通です。
玉子焼きは、店によって作り方が大きく違います。卵にだし、砂糖、みりん、醤油を合わせて焼く店もあれば、老舗の寿司店のように、山芋とエビ、白身魚のすり身を加えて焼く店もあります。醤油が入れば小麦が、すり身が入ればエビや魚が入ります。自分の店で焼かず、仕入れた玉子焼きを使う店もあります。
茶碗蒸しは、だしと卵に、醤油や塩で味をつけて蒸します。具には、エビや鶏肉、ぎんなん、かまぼこが入り、店によっては麩(小麦のグルテンから作る)を入れることもあります。
カニカマなどの練り物は、製品によって原材料がまったく違います。たとえば、日本のメーカーのあるカニカマの原材料には、卵、えび、かに、大豆が含まれていますが、小麦は入っていません。ただし、同じ製造ラインで別のアレルゲンを扱うことがある、とも表示されています。逆に、小麦を使う製品もあります。
そして、これらの料理と寿司は、同じまな板や包丁、巻きす、そして同じ職人の手で作られることがあります。醤油や酢の中身を確かめても、交差接触の問題は残ります。わずかな交差接触まで避ける必要がある人は、どこまで分けてもらえるかを、予約のときに相談してください。
海苔とわさび

巻物に使う焼き海苔は、海苔を焼いただけのものなので、小麦は入りません。ただし、醤油やみりんで味をつけた「味付け海苔」もあるので、巻物に使う海苔が焼き海苔かどうかは確かめる価値があります。わさびは、すりおろした本わさびなら、わさびそのものです。チューブなどの加工品を使う店もあるので、気になる人は聞いてください。
店で使える日本語フレーズ
伝え方の全体は、日本の飲食店でアレルギーを伝える方法にまとめています。
WE TABLEの考え方
寿司は、醤油さえ替えれば食べられる料理だと思われがちです。でも実際には、シャリの酢、煮切りやツメ、玉子焼き、そして天ぷらの衣と油まで、確かめることはたくさんあります。だから私たちは、寿司屋では「醤油」ではなく、「酢と、タレと、ほかの料理」まで聞くことをすすめています。私たちは「安全です」とは言いません。言えるのは、何をどこまで確かめたか、です。
よくある質問
寿司はグルテンフリーですか?
寿司の基本の材料(米・魚・海苔・わさび)に小麦は入りません。ただし、醤油や煮切り、ツメ(甘いタレ)、玉子焼き、いなりなどには小麦が入っていることが多く、シャリの酢に小麦を使った穀物酢が使われていることもあります。グルテンフリーかどうかは、店ごとに確かめる必要があります。
シャリ(すし飯)の酢に、小麦は入っていますか?
店によります。米酢や、酒粕から造る赤酢(粕酢)は、ふつう小麦を使いません。一方、穀物酢には小麦・米・コーンなどを使うものがあり、市販のすし酢や業務用の合わせ酢にも使われることがあります。何の酢を使っているかを聞いてください。
穀物酢の小麦は、問題になる量ですか?
小麦アレルギーについては、厚生労働省のガイドラインが、酢のたんぱく質は100mlあたり0.1g程度と非常に少なく、基本的には摂取できるとしています。ただし重い小麦アレルギーの人は、主治医の指示に従ってください。セリアック病については、国によって扱いが違います。アメリカのFDAは、発酵した食品のグルテンは検査では十分に測れないとして、発酵する前の原料で判断しています。イギリスのCoeliac UKは、大麦のモルトビネガーでも20ppm以下なら食べられるとしています。日本の穀物酢のグルテンを測ったデータは見つかりませんでした。
グルテンフリーの醤油を持っていけば大丈夫ですか?
それだけでは足りません。おまかせでは、職人が煮切り醤油を塗って出すことが多く、ツメ、玉子焼き、いなり、かんぴょうなど、最初から味の付いたネタもあります。シャリの酢や、天ぷらの小麦粉と揚げ油も確かめてください。
耳で聞く
この記事の要点を、音声で聞けます(英語・約2分、AI音声)。
出典
- 農林水産省「醸造酢の日本農林規格」
- 農林水産省 農林物資規格調査会 資料「日本農林規格の見直しについて『醸造酢』」(2008年、醸造酢の種類別生産量)
- 農林水産省 農林物資規格調査会 資料(2013年、平成23年度の醸造酢生産量)
- 農畜産業振興機構「寿司と合わせ酢のいまむかし」(2009年)
- ミツカン 穀物酢 商品ページ(原材料)
- 厚生労働省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)」
- 食品安全委員会「ファクトシート アレルゲンを含む食品(小麦)」(2024年)
- U.S. FDA「FDA Issues Final Rule on Gluten-Free Labeling of Fermented and Hydrolyzed Foods」(2020年)
- Beyond Celiac「Is Vinegar Gluten-Free?」
- Coeliac UK「Branston Pickle and Sarson's vinegar are safe for those with coeliac disease」
- Beyond Celiac「Is Sushi Gluten-Free?」
- Catassi C, et al.「A prospective, double-blind, placebo-controlled trial to establish a safe gluten threshold for patients with celiac disease」American Journal of Clinical Nutrition(2007)
- 半田市「MIZKAN ROOM」資料(中埜又左衛門と粕酢)
- 三菱電機 クラブメ「すし飯」レシピ(合わせ酢の分量)
- クリーブランド美術館「Ōmori, from the series Famous Places in the Eastern Capital」
- 高島屋「味百選」(老舗寿司店の玉子焼き)
- 紀文食品 カニかま 商品ページ(原材料)





